ぶたびより

酒を飲み、飯を食べ、文を書き、正解を生きたい

勉強ネタ:末梢動脈疾患

 

 最近は糖尿病内科にいる。ちなみに春は腎臓内科で、田舎の基幹病院なので透析患者を主に診療していた。コントロールの悪いDM患者をどちらでも見ている。下肢切断に至っている人も多くて、DMがあってASOがあって、下肢壊疽で切断なんてなるともう予後はとてつもなく悪いので、ああ予防医療大切だなの気持ちになる。

 研修医が勉強会の発表役だったのによい症例がないのでなどとのたまった結果として私にオハチが回ってきたのだが、すっかり失念していて、今日は偶然病棟当番でしかも落ち着いている人しか今いないので、仕事時間中に勉強会資料を作ってしまった。けれども上司から命じられた病院オフィシャルの勉強会の資料を作るのは仕事だからこれは問題ないはずである。

 ということでせっかくなら糖尿病性大血管症の話をしようということになった。この糖尿病性大血管症というのは、糖尿病に伴う動脈硬化症のうち脳卒中、虚血性心疾患、抹消動脈疾患を指して言うことの多い語である。糖尿病のガイドラインなどみてみると、最小血管障害に対置される概念としてぼんやりと作られたものなのでなかなか定義が難しいけどとりあえずそんなイメージでオナシャスと書いてあった。

 この手の話で一番やる気がでないのが語の定義の周辺だ。大雑把にまとめると:動脈硬化疾患という大きな疾患群の中に抹消動脈疾患(PAD)、脳血管疾患(CVD)、冠血管疾患(CAD)があり、さらにPADの中で特に下肢についてASOと呼んでいる。さらにASOの中でもFontaine分類Ⅲ度以上・Rutherford分類Ⅱ(細分類4)度以上をCLI:critical limb ischemiaとする。という解釈になるようだ。

 PADの診療を行うためにはまずは症例を適切に拾い上げなくてはならない。PADの検査としてABIが簡便に行うことができ、診断に必須とされている。個人的に少し驚いたのだが、AHA-PADガイドラインではABIを50歳以上の糖尿病患者には年に1回はルーチンで行うことが推奨されており、ABI 0.9以下でPADの検査の診断となる。(ただし1.3以上では動脈の石灰化から血管を十分に圧迫できていないと考えられ、足趾上腕血圧比を追加すると良い。正常値は0.7以上。これは透析患者以外では足趾の動脈の石灰化が稀だから足趾なら大丈夫だよねということで。ただ当院では実施が不可能だから、ABIが1.3以上ならどうしたらよいのかという話になる。循環器内科の先生に訊いてみたら身体所見で鼡径動脈がふれるかどうかで大動脈~総腸骨動脈~外腸骨動脈~大腿動脈での閉塞が分かるだろうし、エコーでは大腿以遠の血流は評価できるのでその組み合わせでよいのではと話していた。エキスパートオピニオンとして参考までに。もちろん明らかに壊疽とかあればもう造影CT撮影したり、腎機能悪ければMRAで評価することになるだろう。DMでルーチンの検査としてABIを実施した時に無症状だけどABIがむしろ高値になってしまったという時の話なので、それで造影CTとかMRAというのは過剰検査の印象が確かにある。)

 国家試験でも覚えさせられる下肢慢性虚血の重症度分類としてRutherford分類とFontaine分類があり、これらの分類は治療法の決定に用いられる。一般に、Fontaine分類Ⅱ度以下(安静時の痛みはない)・Rutherford分類Ⅰ度以下では非重症虚血肢とされる。この群では、治療の基本はリスク因子の管理、運動療法薬物療法となる。米国内科学会(ACP)の推奨では、すべてのPAD患者にスタチン投与(日本循環器学会のガイドライン(JSC 2015改訂版)ではLDL<120 mg/dL以上でスタチンを投与・目標値は120未満、欧州のガイドライン(ESC 2017)では虚血性心疾患の二次予防と同等の70mg/dl未満)、高血圧がある場合には薬物療法血糖コントロール禁煙フットケア教育運動習慣抗血小板療法が強く推奨されている。降圧薬の選択としてはRAS阻害薬でPAD患者における冠虚血性疾患のイベントを減少させる可能性がありACPで弱い推奨となっている。(JCS2015では降圧薬選択よりも140/90mmHg未満に管理することの方が薬剤選択よりも重要との記載あり。)抗血小板療法は心血管イベントや脳卒中、それらによる死亡を減少させるためにアスピリンまたはクロピドグレルが特に有症状例で強く推奨される(ACPの推奨では無症候性に弱い推奨、欧州のガイドラインでは無症候性の下肢虚血でルーチンに抗血小板薬を施行しないとされている。)禁煙も強く勧める必要があり、薬物療法による禁煙指導も検討すべきである。フットケアについて、足潰瘍自体が再発率の高い疾患であり、定期的な足観察が糖尿病患者で非常に重要である。糖尿病性足潰瘍のハイリスク患者として、10年以上の罹病期間、男性、血糖コントロール不良、末梢神経障害、網膜症、糖尿病性腎症、PAD、足潰瘍や壊疽・切断歴が既にある方、足の変形、胼胝・鶏眼、爪の変形が知られている。

 糖尿病などの慢性疾患に伴うPADは非専門医であっても運動療法の推奨や薬物療法など介入できる要素も多く切断となると予後も悪いことから日常診療でのスクリーニングと保存的治療を行えるとよいのだろうなと感じている。ただ、推奨通りに行うと処方薬が多くなってしまうのでなかなか難しい。抗血小板薬が開始になれば当然PPIも開始になるだろうし、高齢者への心血管イベント一次予防のスタチンへのエビデンスは欠けているのにすでに多剤内服している高齢者であればどこまで追加の意義があるのか悩ましい。無症候性の場合や高齢の場合では特に推奨が弱いものやルーチンでの投与が推奨されない治療についてはイキの悪い人であればやらなくて良いのかなと思っている。

 

 

Take Home Message

  1. 50歳以上の糖尿病患者にルーチンでPADのスクリーニングとしてABIを年に一回検査する。
  1. PADの診断となったら安静時痛あるか安静時足関節圧が40未満であれば血行再建検討。安静時痛のない場合には以下の保存的加療を行う。
  2. 安静時痛がないかつ安静時足関節圧が40以上では非重症なのでリスク因子の管理・運動療法薬物療法:LDL<120mg/dl目標にスタチン、高血圧症の管理(140/90mmHg、RAS阻害薬良いかも)、抗血小板薬(特に有症状例で死亡・血管イベント抑制のためのSAPT:アスピリンまたはクロピドグレル)、禁煙(薬物治療も考慮)、フットケア教育(フットケア外来への紹介も検討:足観察、足の洗浄→乾燥、こたつ・電気毛布・風呂の湯音に注意、靴下の使用、鶏眼・胼胝治療に化学薬品を使わない、皮膚乾燥あれば保湿クリーム使用ただし趾間に使用しない、縫い目のない足にあった靴選び、深爪の禁止、足の外傷・水疱があれば早期受診)、間欠性跛行があれば監視下運動療法(30-45分以上/回、週3日以上、12週間以上に亘って。中等度の痛みで終了。→心臓リハビリの適応になるのでやっている施設なら紹介を検討。)

参考文献:Dynamed Plus、JCS 2015のPADガイドライン、ESC 2017ガイドライン

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数時間でやっつけで書いたので不足点とかこれは間違っているとかあったら詳しい人のコメント欲しいな。あと、これを参考に診療して不利益を被っても筆者は一切の責任を負いません。投資と診療は自己責任で!!!