ぶたびより

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購入株振り返り:レイズネクスト

長文なので先に要点:

レイズネクストはプラントメンテナンス会社。新規の設備投資よりもメンテナンスの方が景気に影響されない印象があり安全そう。財務状況は良好。最近合併して業績がパワーアップしているが、今後どのくらい業績が上がるがよくわからないので合併前の業績でしかも成長は全くしないという設定を置いて理論株価をDCFを利用して算出した。これはかなり厳しい推定だと思う。結局この計算ではフェアバリューからやや割安程度の株価となる。実際にはもう少し業績が良いのでかなり割安な水準のはずである。さらに高配当銘柄でもある。景気の影響を受けにくい業種が地味で不人気なために割安に放置されているのであれば購入に値する。

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レイズネクストはプラントメンテナンス会社。新規に何かしら作るタイプの業種よりメンテナンス業の方が業績も安定しているのではとのことでメンテナンス業のバリュー株を探していたところ発見した。2020/11/20現在PER予測 8.83(実績4.87) PBR 0.93と指標的には割安な水準。IRBANKやvaluation matrixで確認すると自己資本もどんどん積みあがってきているので問題なさそう。2019年に新興プランテックとJXエンジニアリングと合併したため、それ以前との業績の比較が難しい。合併後から業績は大幅に伸びている。それはそうか。

理論株価の計算はディスカウントキャッシュフロー法で行う。東証一部でTOPIX採用銘柄でもあるので、DCFでの計算も対TOPIXでのβを使用することとする。ロイターのページをみると無料でβを検索することができ、ここで0.64と出てきた。しかしこれが何と比較してのβなのか不明だった。念のため楽天証券で検索すると、指標のところで対TOPIXでβ 0.93と記載されていた。こちらを今回は利用することとする。リスクフリーレートは長期の国債金利として、現在ほぼゼロなので0%で計算する。借入金の金利は2%に設定1)。マーケットリスクプレミアムについては7%程度に設定するのが一般的なのではないか。2)IRBANKを確認して、10年前後だとフリーキャッシュフロー(FCF)は10-12億円/年程度だった。自己資本比率は67%。今後成長することを見込んでいるらしいが、この辺りについてはよくわからない。確かに合併によって事業規模も多くなったしその効果もあるみたいだけれど、成長性の評価はできないのでゼロ成長で計算する。しかしこれは実際にはかなり辛口の評価だ。成長はしなくても合併後からのフリーキャッシュフローのみで本当は評価すべきだろうから。

 特に割引率について説明を挟んでこなかった。未来にもらえるお金の価値は、現在にしてみると割り引くべきなので金利をつけようという考えである。例えば私と一緒に小児科研修をしている研修医が奨学金を返済できなくて困っている。ここで、私が一年後に返済できるならと100万円を貸すとする。彼がバックレる可能性が、10%あるとする。この時期待値的には1年後の私のお金は90万円になってしまう。10%の確率で夜逃げされても大丈夫なように金利を設定しないといけない。さらに敢えて負わなくて良いリスクを負うわけなので、10%分を上乗せされても実際うまみがない。損失の恐怖と獲得の喜びは金額が同じでも気分が非対称になる。これを補正する分のプレミアムを乗せないと金融商品として成立しない。3)金利を設定することと、未来にもらえるお金の割引率を考えることは同じことである。

事業価値は上記のような割引率(r)を考慮してFCF(営業で実際に入ってきたお金から投資に使ったお金を引いた分、実際に企業にその年に入ってきたお金)を無限まで加算すればよい。(つまり、一年目はFCF円、二年目は本当にそのお金だけ稼げるか不明なのでFCF/(1+r)円、三年目はFCF/(1+r)^2、……。未来になるにつれて得られるお金を減らしていく。これは初項がFCF、公比が1/(1+r)の等比数列の無限までの和であるから、FCF/rが事業価値になる。

しかし、割引率は銀行と株主で異なっている。銀行はお金を貸しているわけで倒産しなければお金が返ってくるのでリスクが株主よりも低い。だから上記のように2%程度となる。一方で我々株主は倒産しなくても目減りする可能性があるので、もう少し期待される利回り・割引率は高く設定したい。どの程度にするべきだろうか。

一般に株主の要求する割引率はCAPMで算出される。CAPMでは、インデックス投資の期待利回りとの差(β)とインデックス投資の期待利回りとリスクフリーレート(10年国債)で算出する。リスクを取らない時の金利にインデックスの利回りからリスクフリーレートを引いてさらにどのくらいインデックスと連動しているか(β)を掛けて算出する。レイズネクストでは0+0.93(7-0)=6.5%が株主分の割引率になる。

レイズネクストは自己資本比率が67%なので、67%分については株主の持ち分であり6.5%の利回りを要求する。そして、残り33%は銀行からの融資なので2%の金利とする。すると、全体では6.5%×0.67+2%×(1-0.4)(法定実効税率)×0.33=4.75%の割引率となる。事業価値は厳しめの見積もりでも10‐12億円/0.0475=210-252億円となる。ここに資産価値を加算する。ざっくり流動資産と投資その他資産の和が910億円。これが換金の容易な資産と考える。ここからすべての負債を差し引いて手残りが520億円。企業価値は事業価値+資産価値なので、750億円程度がゼロ成長ならフェアバリューのはずだ。(ロイターのβを使用すると850億円程度になる。)合併により事業価値が増大しているので、合併前のFCFで考えたゼロ成長モデルでもフェアバリュー~やや割安になるのであれば実際にはかなり割安圏なのだろうから購入して良いと考えた。

安い理由としては合併してから年数が浅く合併後の事業価値の正確な分析が難しいこと、業種として成長が見込めない(日本の人口減少とともに石油製品の消費量も減少するはずで成長しないからこそ合併しているのだろう)から投資先として魅力がない、とにかく地味。などだろうと考えている。ゼロ成長で考えているので、あまりにも大きなマイナス成長だとさすがに投資先として魅力が減衰する。日本のプラントは老朽化が進行していて今まさに稼ぎ時のようだが、今後現在の新興国に進出する見込みがあるのだろうか。そのあたりが不安。有価証券報告書を見るとタイ、インドネシア、中国に連結子会社があるので国内のみで生き残るつもりはないのかもしれない。

sr20_4.pdf (raiznext.co.jp)

 

成長性がない、ひょっとしたら斜陽産業かもという不安があるけれども、メンテナンスがメインという業態からも安全性が高いように思う。直近の決算資料をみても、メンテナンスの需要はコロナ禍があっても底堅いことがみてとれる。上述したように財務も堅い。また配当性向40%としていて、配当利回りも4%を超える。最近下落していたので、少しずつ増やして組み入れ比率が10%程度になった。

 

1)日銀のレビューの負債コストについての記事で1.5%程度だった。厳しくあえて2%とした。(本当は銀行からの金利も支払利息と負債残高から計算した方が良いのだろうが面倒だった)

2)TOPIXの平均値のPERから計算する。PER(TOPIX ave.@2020/11/20) 27.57である。数式的にはPER=1/(割引率-成長率)で定義されるので(注:本当は一株あたりの“フリー”キャッシュフローなのだと思う。PERは発生主義的な営業利益での計算になる。しかしPCFRの分子は営業キャッシュフローなのでこれでは流用できないはず。PFCFRが不明ならPERで代用するのが無難のように思う)、成長率が不明だと割引率を推定できない。成長率もおそらく、TOPIX平均を利用すればわかるのだと思われる。ただ、一般には5-7%程度に設定するらしいから今回は厳しく7%の割引率とする。

3)俗にプロスペクト理論などと呼ばれるアレ。損失の方を大きく捉えてしまう。サイコロで1の目がでたら100万円もらえるがそれ以外の目がでた場合には10万円とられるゲームの参加費が7万円なら参加するべきなのだが(100×1/6-10×5/6>5)、10万円の損失は結構苦痛なので期待値的に勝てると思ってもなかなかやりたくない。