ぶたびより

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勉強メモ:小児副鼻腔炎診療

 現在は小児科研修中。医師によって抗菌薬処方閾値が違うことにモヤついて以前は中耳炎診療についてざっくりまとめた。今回は副鼻腔炎診療について個人的勉強記録を作る。ちなみに勉強前の現在、主に内科診療での副鼻腔炎へのイメージは以下の通り:確定診断には低線量CT、停戦晶CTで一回撮影するだけなら被ばくもそれほど問題にならないのではないかと思って結構閾値低めに疑ったら撮影してしまう。レントゲンは感度も特異度も微妙だからdispositionを変えないように思うし基本的には不要。鼻腔所見が本邦のガイドラインで求められていたと思うが教えてもらったことはないし自信も当然ない。所見とるのが困難なら症状・病歴で抗菌薬処方適応を決めるのが良いのではないか。例えばIDSAのガイドラインでは10日以上の持続や二峰性の経過の時に抗菌薬投与となっていたはず。こちらの方が実診療に即している気がする。

 さて、そんな事前知識の状態でまず副鼻腔炎についてガイドラインを探すと、IDSAのガイドライン1)、American Academy of Pediatrics ; AAPのガイドライン2)、本邦のガイドライン3)が見つかる。最後に引用文献として貼り付けておく。IDSAの治療アルゴリズムは簡潔で分かりやすいため以下に添付する。具体的には

①10日以上持続・改善しない症状

②3-4日以降の重度の症状、39度以上の発熱に加えて顔面痛か膿性鼻汁の存在

③二峰性の経過
を抗菌薬の処方の適応と判断する。概ね私の理解と変わらないようだ。良かった。抗菌薬の選択については国による起因菌の特性の差異からそのまま適応することが困難としても、抗菌薬処方閾値については国による異同はほとんどないように思うので、このあたりは参考にして良いのではないかと思う。また、初めて知ったのだが、このIDSAのガイドラインは小児と成人で共通であった。念のためにAAPのガイドラインも参照してみたが、ほとんど相違はなかった。10日以上持続・改善しない症状の例として後鼻漏→咳についての記載があるくらい。しかし、10日以上咳している子供は沢山いる気がする。集団保育をしていれば、常に風邪をうつしあってしまうもの。個人的には、うつしあっている感じではなくて、純粋に最初の風邪が長引いてこじらせてて鼻症状メイン→後鼻漏で咳だ、みたいなパターンでなければ対症療法で良い気がしてしまう。親御さんと相談かな。ちなみに本邦のガイドラインでは鼻副鼻腔炎ガイドラインとされており、鼻腔所見(後鼻漏と鼻汁:漿液性or膿性)と臨床所見(小児では鼻漏・湿性咳嗽・不機嫌)で重症度評価を行って、重症度に応じて抗菌薬処方適応を決定している。このアルゴリズムは中耳炎の本邦のガイドラインに似ている。成人では鼻鏡による鼻腔所見を参考にしているが、小児では鼻腔所見が簡素になっているから一般医家にとってもそれほどハードルが高くないかもしれない。一般的な上気道炎の改善の過程で膿性鼻汁が認められることも多々あるので、二峰性の経過等について触れられていないのでなぜかなと思って診療アルゴリズムを見ていて気が付いたのだが、これはおそらく医療へのアクセシビリティの差だと思われる。悪化する前に風邪ひくと比較的すぐに受診するので、初診時に二峰性の経過であることはまずないのではないか。そして、軽症に割り振られて5日間の対症療法で経過観察すると、先ほどのAAPやIDSAのガイドラインの抗菌薬適応のゾーンに近い群が残ることになる、ということなのだろう。

 抗菌薬の選択については、BLNAR等の比率から海外よりも国内のガイドラインの方がよさそう。基本的にはどのガイドラインを参照しても、AMPCが第一選択となっている。第二選択についてはいろいろと書いてあるので、起因菌が肺炎球菌とインフルエンザ菌だから地域のアンチバイオグラムに依存するのだろう。しかし、論文やガイドラインではなくて、手元の教科書にはAMPCの大量投与で小児の副鼻腔炎の治療に失敗することはまずないと書かれれている。たしかに感染症の先生はみんな中耳炎も副鼻腔炎も肺炎もAMPCを推している印象がある。何か文献的な裏付けがあるのだろうか、よくわからない。ちなみに本邦のガイドラインではまず軽症なら経過観察、そのあとに改善しない場合や最初から中等症と判断した場合には細菌性副鼻腔炎として常用量のAMPC、セカンドラインとしてAMPC大量、第3世代セフェム系ABxとなっていた。うーん。他に選択肢がない時以外はあまり積極的に利用する薬剤ではないように思うので現実的には高容量AMPC一択なのではないか。

 CTの適応については、IDSAでは2種類抗菌薬を使用しても改善しない場合とされていた。CTも日本だと閾値を低く利用できる印象があるが、ガイドライン上は眼窩や頭蓋内に合併症が疑われる場合にのみ推奨となっていた。

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文献1より引用

1)Anthony W. Chow et al. Clin Infect Dis. 2012 Apr;54(8):e72-e112.

2)Wald E. R. et al.Pediatrics July 2013, 132(1) e262-e280

3)日本鼻科学会 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 追補版(2013)