ぶたびより

酒を飲み、飯を食べ、文を書き、正解を生きたい

外傷の話

 救急外来で重症外傷を見る機会に恵まれなかったのは、自分自身が内科系であることや、研修医時代に回った3次救急は大学病院であり、研修医には裁量権が全くなくてただ採血してモニターを貼り付けるだけの仕事をさせられていたからだ。自分の病院ではほとんど一人で救急外来をさばいている二年目の秋頃に行った大学の救急部がそんな感じだったので、当初救急もやりたいなと思っていた私は一気にやる気をなくしてしまった。また、ウォークインで受診した患者への診察が雑で、バイタルが崩れていない患者の中から重症者を見逃さないようにしようという意識が感じられなかった。ERではないから仕方ないのかもしれないが、それならそもそもウォークイン患者を取らなければ良いのだ。結局、蘇生的行為をする際にも研修医に手技は回ってこないし、ICUは救急科ではなく麻酔科が持っているので全身管理の勉強もできず、ここで働くのはないなと思ったのだった。

 さて、普段は輸血がない病院で勤務している関係から、輸血をどのくらいするのかについてはほとんど知識がない。JATECだと1:1:1でRBCとPCとFFPを入れようと書いてあった記憶があるがその程度で、あとは補液の制限、低血圧の許容、ただし頭部外傷だと少し高めの血圧にする、トランサミン投与、くらいを勉強した記憶がほんのりある程度だ。あとは産科救急のコースだと、危機的出血を宣言したら10単位ずつ用意することになっていたなとか。

 補液を制限して低血圧を許容しようとかこの辺りの話はDCR(damage control resuscitation)というくくりで語られるようであった。外傷の教科書を持っていないので、仕方ないからdynamed plusを引くとABC-T(task force for advanced bleeding cared in trauma)とかACS TQIP(American college of surgeons trauma quality improvement program)などというところが作っている目標値が出てきた。以下にまとめる。内容についての批判的な吟味はしないけれど、これは非専門医であればガイドライン通りのことができればとりあえず合格点だと考えているからです。

[DCRの大枠]

出血性ショックでドバドバまだ出ていたり凝固が崩れたりしているようならさっさとdamege control surgeryにつなげる、大量の輸血(MTP:massive transfusion protocol)、低体温を避ける、挿管(適応は下に記載。ショックなら酸素消費↓のために挿管してしまえというのがJATECだったが、上記ガイドラインたちだと微妙に違うのかもしれない)、トランサミン投与、低血圧許容。

[AとBの管理]

ABC-Tの挿管適応:気道閉塞、GCS≦8、、出血性ショック、低換気・低酸素→まあそりゃそうでしょという感じ。PaCO2 35-40 mmHg目標。肺保護換気(6ml/kg)で中等度のPEEPを掛けることを考慮。個人的には前負荷↓となって血圧さらに下がりそうだし、あまりPEEP掛けたくない気がするのだが、状況によりけりか。血圧が本当にギリギリの時はやりにくそう。考慮するくらいだから、できるときにはやってみようくらいに解釈した。挿管時はRSIでやることが多いらしいが、筋弛緩使うと挿管失敗した時にいやで最初はロクロニウムなしでいつもトライしてしまう。また麻酔科医じゃないし、失敗してCVCIになった時に外科的気道確保は正直自信がない。鎮静・鎮痛も血圧が下がるのが嫌だよね。新しめのDCRのReview論文(PMID:32252128)にも血圧下がるからショックの時に行う鎮痛鎮静気を付けてね、くらいしか書かれていない。ネオシネジンとかちょろっと打ちして一時的に上げるしかないのかしら。ケタミン+他の鎮静薬とすれば打ち消しあってよいのかもしれないけれど(研修医の頃にケタミンプロポフォールを使っている救急医を見たことがあった)、ケタミンを普段使わないのでちょっと使いにくい。あとは、除脳硬直・瞳孔散大など脳ヘルニアが差し迫っている感じがあれば、過換気にする。頭部外傷なら酸素↑が良いけど、過剰な高酸素(PaO2>487 mmHg)はさすがに良くないし、Hbが正常くらいまで上がったら酸素はもとに戻す。

[Cの管理:どのくらいの低血圧?]

目標値について

■主要な出血源の止血が得られるまではsBP 80-90 mmHg、MAP 50-60 mmHg

■頭部外傷・脊損;50-69歳でsBP>100 mmHg、それ以外の年齢でsBP>110 mmHg. GCS≦8ではMAP≧80 mmHg

[Cの管理:輸血の量は?]

・最初の輸血はRBC:FFP 1:1~2で、O型RBCとAB型FFP投与。

・L/Dが出てきたら以下の目標値を目安に調整

・Hb:7-9 g/dl以上(ABC-T)、10 g/dl以上(ACS-TQIP)

・PT(sec):正常の1.5倍未満(ABC-T)、18秒未満(ACS-TQIP) 

・血小板数:>5万/μl、出血持続していれば10万/μl(ABC-T)、>15万(ACS-TQIP)

・フィブリノーゲン:150 mg/dl以上(ABC-T)、>180 mg/dl(ACS-TQIP)目標にクレオプレシピテートまたはフィブリノーゲン濃縮製剤(fibrinogen concentrate)

RBCFFPはあたためて低体温予防。他には部屋をあたためて、濡れた衣服を脱がせて、あっためるデバイス使うなど。深部体温36-37度くらいが良い。TRALIとTACO(transfusion associated circulatory overload)に注意。(ただRBCFFPのvolume負荷ってどう考えたらよいのかよくわからないよね……。膠質液扱い??)電解質確認。(大量輸血時にBGA確認しながらCaが下がってきたらカルチコール4Aくらい入れている印象あるが、だいたいそんなくらいのイメージで良いのかしら。CPAの時高Kでもカルチコール2Aくらいしかいれてないからかなり多く感じてしまうが。)あと、現在いる病院ではフィブリノーゲン低下時にはFFPを入れている。ここのガイドラインで書かれているフィブリノーゲン濃縮製剤やクレオプレシピテートなる製剤を使わないのは保険上の問題なのだろうか?

[Cの管理:補液の選択]

生食は使っても1000-1500 ml程度まで。できれば酢酸リンゲルとか乳酸リンゲルみたいなものを外液として使う。

[Cの管理:心血管作動薬]

ABC-Tでは低血圧で死にそうな時には上記の補液・輸血に加えて、ノルアドレナリン、デスモプレシン(バソプレシンは記載ないけど別にバソプレシンでもよさそうでは?? 結構使っているイメージがある。敗血症で使う時に0.03 U/minなので20単位×2V/50mlで希釈して2ml/hrくらいで使っているわけで、外傷で使用する時も今いる病院だと大体このくらいの速さで使っている印象。)を使用。心機能低下があれば、DOBやアドレナリン。容量の記載されたガイドラインは存在しないが、Nad 0.05-0.2γ(3mg/50ml 2.5-10ml/hr)、DOB 5-20γ(個人的にはただでさえショックなのにDOBでPafやVTでさらに循環動態破綻が怖くてあまり使いたくなくて、せいぜい使うとしても3γくらいから初めてしまう)、くらいが提案されている。