ぶたびより

酒を飲み、飯を食べ、文を書き、正解を生きたい

資産運用の話① 動機とインデックスファンドの正当性

■はじめに

□母方の祖父は当時の建設省に土木技術者として勤めていたから比較的収入が安定していたもののマネーリテラシーなどと言う横文字とは無縁な人であった。小金持ちになったことを示したかったのか、優待株だけ調べて沢山持っていたようだが、爆損をキメていた。また、近所の証券会社に行っておすすめの銘柄を聞いて半値にしてみたり、新聞にあった海外通貨建ての金融商品を見つけてのこのこと銀行に行ってこれまた資産を半値にしたりしていた。リーマンショックの時は底値で売ってそこでも数千万単位の損失を出していたと思う。それでも収入が安定していたので、9桁にはいかないものの日々の生活には困らないくらいではあったのだが、残りの財産を今度は怪しいファンドマネージャーに全部預けて一文無しになった。ちなみに、私はシングルマザー家庭で、母は稼ぐ手段がなく、祖父の収入と資産に老後を依存するつもりであったから、これは大変なことだった。また、すでに離婚した父もマネーリテラシーが皆無なのかセルフネグレクトなのかは知らないが多額の借金を抱えているので、彼が死んだらすぐに相続放棄する必要がある。

□本業で稼ぐ能力があっても、マネーリテラシーが低いだけで、不幸な老後を送ることになることを知った。私の資産運用への圧倒的なモチベーションになっているのはおそらくこのあたりの経験だ。頭が弱いと、たったそれだけのことで努力しない悪人がやってきて他人が働いて稼いだお金をむしり取っていってしまう。

□もともと、私は極めて文系よりの人間で、得意教科は国語と英語だった。この二つは勉強しなくてもよかったし、そもそも勉強したとしても苦痛ではなかった。しかし、私が高校生だった当時は就職氷河期で、早慶程度を出ていても自動販売機のジュースの補充をしている人のニュースなどを耳にしていたし、結局何かしたいことがあっても、比較言語学者文化人類学者になったら飯が食えるのかとか言われていた。仕方なく、苦手な理系科目を集中力に乏しいADHDなりに努力して部活後に疲れて仮眠して夜に勉強して、地方のFラン医学部に進学した。得意な英語や国語はあまり活かすことができなかったし、今後も活かすことはあまりないのかもしれない。

□学生時代に医学に興味を持てたことは一度もなかった。本当に授業がつまらなくて苦痛だった。稼ぐために医師免許取りにきただけなので、成績はどうでもよかった。留年すると、生涯収入の最後の1年を失うので留年だけはしないようにしていたが、60点以上を取ることは無駄な労力と判断していた。つまらない学問に身をささげるなら、せめてコスパを最大化して人生を楽しみたかったからだ。

□結局、働き始めると、環境も良かったのか或いはテスト勉強と目の前の患者のプロブレムを解決することの間には思いのほか大きな違いがあったのか、存外楽しく仕事ができている。けれども、自分がしたかったのは本当にこの仕事なのかという思いはずっとある。科の選択に悩んでいたのも結局医者にそんなになりたいわけじゃなかったからだ。

□経済的に自由でないということは、不幸だ。マッチングアプリで裕福そうな人間が、飯を食えなさそうなことをのびのびやっているのが見えると不愉快だった。そんな時に指導医氏から資産運用でもやってみたらと本をもらったのであった。

□私はむしり取られ続けてきた。両親が離婚して、田舎に飛ばれて教育機会を奪われた。マネーリテラシーの低さから実家の金をむしりとられて裕福でなくなったから金のない親のために真面目に貯蓄をしなくてはならなくなった。バブル崩壊後に生まれてずっと不景気で、本当は他にも勉強したいものがあったのに安定した職業につかないといけなかったからなりたくもないのに進学の機会を奪われて医学部に進学した。顔もしらない悪い人に、両親に、時代に、奪われ続けてきたものを取り返さなくていけない。幸い私は生まれつき頭が良かった。これだけは奪われない。奪われずに最後に残ったものを使って人生を取り返すのだ。自分の生きたかった人生を取り戻す戦いなのだ。

 

■効率的市場仮説・ランダムウォーク理論

□『はだしのゲン』を小さい頃に読んでいた。原爆で重症熱傷を負ったお金持ちの画家志望の男性の世話を主人公がするというシーンがある。血便を垂れ流し、親族からは原爆の毒がうつると疎まれてしまう。たしか、その時の給料が一日3円程度であった。しかしここに注釈が付いていて、当時の1円は今でいう1000円でといったような解説がついていた。

□ここ最近は特に日銀はお金を擦り続けている。不景気だ、金融緩和だ、みたいなニュースはたまに見るけれど、じゃあそれが私と何の関係があるのだろう、という感じでいた。結局、金を刷って金利を減らして、タンスにいれて放置するな、円の価値を下げるぞ、だからどんどん投資して消費しろ、というメッセージだったのだ。銀行に入れた円の価値はどんどん減っていく。現状では毎年2%のインフレ率が目標とされている。つまり少しずつ物価があがり、現金の価値は希釈されていくことになる。

□100万円が今手元にあっても来年には98万円分の価値になってしまうなら、なるべく価値が減衰しないものに変えておきたいと思うのが普通の反応である。金(ゴールド)でも株でも社債でも国債でも不動産でも何かしら別の形に変えておきたい。しかし、それは私以外の人だって気が付いているはずではないのか? みんなが同じように例えば金に換えてしまいたいと思ったら金の価格はどんどん上がってしまう。毎年2%ずつ円の価値が下がることがほぼ確定していて、金の価値が一定なら円での値段は2%ずつ毎年あがっていくことが予測される。円は発行できるが、金は無から作り出せないからだ。ずっと先の未来まで考えた時にそれでは現在の金の適切な値段というのは一体何なのだろう。毎年どんどん円換算での値段があがっていくなら、100年後には大金持ちだ。全部ゴールドにしてしまえ! そんなことにはならない。これはきっと、100年後まで2%ずつ値段が上昇する可能性が90%で、10%の確率で国が政策を転換してしまうあるいは金自体に価値がなくなってしまうかもしれない、などと言った不確実性をはらんでいるからだと気が付いた。上がる確率と下がる確率、それらの不確実性が組み合わさって、売買したい人たち(そこには沢山のプロがいる)が今の価格を決めている。国の方針が変わりました! みたいなニュースがでると前提が崩れて確率が変動し、現在の値段が動くことになる。それじゃあ予測なんかできないじゃないか……。予測ができないものに投資して一体どうするのだ。上がるか下がるかわからないならギャンブルじゃないか、そんなものに私の一生懸命かせいだお金をつぎ込みたくない。みんなが正しい判断をして、今の値段が適切で、何か新しいニュースやイベントが起こると、値段が変動する。新しいニュースは予測できないので値動きは完全にランダムになる。みんなが正しい判断をして、正しい値段を付けているという仮定を、効率的市場仮説と呼んでいる。何かしら新しいイベントが起こっては値段が動くというランダム性についてランダムウォーク理論などとかっこよく呼ぶこともある。

 

プロスペクト理論とリスクプレミアム

□勝敗が決まるまでじゃんけんを行って4回連続で勝ったら16万円もらえるゲームの参加費が1万円だったとき、もしもお金持ちであったなら適切なトライの回数は無限回だ。けれども4回連続で勝つのって稀だし、試しに10回やってみて10万円失う確率も(15/16)^10=52%あることを考えると結構しんどい。10万円うしなったら血涙流してこの提案をした人に私は掴みかかるだろう。そして2度ともうこんな提案には乗らないと決意するだろう。

□人は損失を大きく感じてしまうようにできている、ということをプロスペクト理論などと呼ぶ。つまり、先ほど私は適切な値段って何なのだろうと考えていたけれど、価値が減るかもしれないと思うとそれを買うことをためらってしまう特性がヒトにはある。市場での価格というのはヒトが決定しているので、リスクがある商品というのは実際の価値に比べて割安になる。割安にならないと誰もその商品を買いたくないからだ。購入したい人がいないと値段が下がる、ある程度まで下がるとリスクを考慮しても購入して良いかなという人が現れ始める。そこで価格が均衡する。リスクのある資産はある程度割安でリターンが大きくないと誰も購入したくない。プロスペクティブ理論によって、本来の価値よりも割安になり本来の期待されるリターンよりも高いリターンを要求できることになる。この本来の価値との差をリスクプレミアムと呼んでいる。

 

■インデックスファンド

□これまでの記載から勝ち方は見えている。効率的市場仮説が破綻している時に本来の価値よりも割安になったものを購入することだ。効率的市場仮説が成立していないものを購入するのでも良い。それはプロが参入しにくい誰も名前を知らない小型株だったり、地味で夢もないし積極的に購入したくなかったり、一時的要因からここしばらくの業績が悪いことがわかっており悪い業績を反映した株価が付いている時だ。こういう時はつまり高いリスクプレミアムが付与されていると説明できる。

□しかし、プロが多数参加している中で自分だけが正しい判断をしていて市場参加者が誤った判断をしていると言うことには実際のところ結構高い心理的ハードルがある。そこまでしなくても、平均的にそこそこのリスクプレミアムを享受したい。平均的にはプレミアム分株式投資をしていればお得なのだから……。

□そんな時に良いのはインデックス投資信託なのだと思われる。投資信託というのは、株などの詰め合わせパックである。プロのおすすめパックはアクティブファンドなどと呼ばれる。一方で、日経平均などの決まった銘柄の詰め合わせパックをインデックスファンドと呼ぶ。違いは人件費だ。アクティブファンドではプロが選んでいるので人件費がかかる。しかし、効率的市場仮説を信じている人にとってはこの人件費は無駄なものに見えるだろう。彼らにとって株価はランダムに動いて予測できないのだから。そしてその事実は概ね正しい。アクティブファンドはインデックスファンドに負けることも実際多い。だから人件費がかからない分手数料も安いインデックス投資信託であれば、資産が減るかもしれないというリスクをとってリスクプレミアムを享受できるし長期投資として良いと言える。実際に、過去何十年分のリターンをみてもゴールドなどよりリスクの高い株は高いリターンを長期的に達成している。多くの場合には効率的市場仮説が成立しているし、ランダムに株価が動くと信じている人にとっては、予測できない株価の上下を予測しても仕方ないのだから、リスク資産に分散投資して平均的にはリスクプレミアム分のリターンを得られれば良いという考えには正当性がある。しかもインデックスファンドでは数百の会社に分散投資しているので、一つの会社に投資しているよりも少しリスクが低い。

□実際のところ、効率的市場仮説はある程度正しいように思われる。これ以上勉強したくない人にとっての正解はこれで見えたことになる。インデックス投資信託を毎月決まった額購入していけばよい。株だけで心配ならもう少し分散させると良い。REITと呼ばれる不動産投資を間接的に行う商品や、海外の株やREITにも分散させる。現金もある程度欲しいかもしれない。例えば、25%を日本の株、25%を日本以外の先進国株、20%を国内のREIT、20%を海外のREIT、10%をゴールドと分散させて、毎月10万円をこの比率で投資していく。購入する額は決まっているので、割高な時には少ししか買えない。割安な時には多めに購入できることになる。

□年に一回程度リバランスを行う。同じ比率で購入し続けていても、値段が動くので日本株価が暴落すれば25%ずつ購入していたのに、比率としては20%くらいに下がっているかもしれない。そうしたら5%分を追加で購入する。すると、自然と安くなっている時に安いものを購入できることになる。最低限の勉強で済ませたい人にとっても正解はおそらくこれである。

 

■個別株投資へのいざない

□しかしわたしは人生を取り戻すために資産運用をしているのだ。上記のインデックスファンドの運用には知性が必要ない。私は勉強が得意だし、それを使ってお金を増やさなくては機会損失になる。世の中の投資家の中で成功している人たちはランダムウォークする株価で偶然に莫大な利益を得たのだろうか? どうもそれだけではない気がする。再現性があるとしか思えない人間が一定数存在しているからだ。どうしたらインデックスを上回る成績を出せるのだろうか。次回、個別株投資!