ぶたびより

酒を飲み、飯を食べ、文を書き、正解を生きたい

資産運用の話③ 理論株価の推定ー資産価値

■前回の話

□株式市場が効率的である時にインデックスファンドの積み立ては正解になる。もし個別株の投資を行うならば、市場が効率的でない値段をつけているものを購入するべきである。つまり、企業の価値を計算して、企業の価値を発行済株式数で割ってやることで一株の価値を出し、それが実際の株価より低ければ良いわけだ。ただし、低いには低いなりの理由があることが良くある。低い理由を説明できて、それが解除可能であったり、あるいは自分にとって我慢できるものであったならばその株を購入するという選択をすることになる。

■資産価値:目に見えるもの

□まずは資産価値について考えてみよう。これはそれほど難しくない。企業は決算短信有価証券報告書というものを定期的に出している。気になる企業の有価証券報告書をネットで探せば簡単に手に入る。ここに書いてある資産に注目するだけである。

□決算書は見慣れないかもしれないが、表が大きく3つある。貸借対照表(バランスシート)、損益計算書(PL)、キャッシュフロー計算書である。資産を見たいときには貸借対照表というところを見ればよい。

□ここの仕組みを大体説明する。資産と書いてあるのが文字通り会社の資産である、土地や現金、売上債権、工場やその機械などだ。気にするのは流動資産というくくりに含まれるものだけで基本的には良い。流動資産というのは換金しやすい資産を指して言う語である。換金しにくい資産、例えば工場の機械などは何円が適切なのかはっきり言って良く分からない。機械装置・搬送具●億円と書いてあっても、それが本当にその値段で売れるのかどうかは別問題である。そして、そういったよくわからない資産は非流動資産に含まれている。

□資産価値を見る時に意識することは、自分が会社を乗っ取って社長になった時にその時価総額で買収できたら嬉しいかどうかだ。会社を壊して、みんな社員をクビにして借金は返済するとして後に残ったお金だけ買収した私がもらってしまうことができるとしたらどのくらいの価値なんだろう、機械とかはよくわからないし、捨てちまえ! 土地の値段も分からなければゼロ換算にしてしまえ、とそんな気持ちで読んでいくと良い。慣れたら細かい項目について意識すればよいのだ。

□具体的には資産価値は流動資産(換金しやすい資産)+投資そのほか資産(これも換金しやすい資産)の合計-負債すべての合計で計算することが多い。投資その他資産というのは、その会社が持っている関係会社の株式などが含まれている。これも自分が会社を乗っ取ったら売ってしまえば良いので(実際には無理でもそういう仮定で換金しやすい資産だからそのように扱う)これも資産として考えてやっても良いだろう、という感じである。

□毎回土地を無視して良いかというとそうでもない。貸借対照表にはちらっと雑に値段が描いてあるだけでも、実は高額な土地を沢山もっている企業がある。例えば、バリュー投資家界隈で最近人気のJR東日本の場合、以下に写真を添付する。これは有価証券報告書という年に1回出る詳しい会社の資産や業績や今後の事業リスクなどについて書かれた資料の一部だ。この中に不動産価格や所有する株式等について、時価と簿価との差が記載されている。よく資産バリュー投資家の人がいう実質PBRというのはこのあたりで補正した資産価値のことを言っている。

f:id:butabiyori:20210129222731j:plain

土地含み益

□『星の王子様』や『人間の土地』で有名なサン=テグジュペリを地中海上空を飛行中撃墜したのはホルスト・リッパートという彼のファンだった。ホルスト・リッパートは後に「あの飛行機に乗っていたのがサン=テグジュペリだと知っていたなら撃たなかった」と話した。大切なものは目に見えないと書いた当の本人が、自身の存在を認識されなかったために亡くなってしまったことになる。

□資産価値についても同様のことが言える。目に見える価値はわかりやすい。現預金●億円だとか、負債●億円といった値は決算短信有価証券報告書を参照すればすぐに分かる。土地や有価証券含み益(帳簿価格との差があるもの)も一応上記のように調べれば出てくる。

貸借対照表から見えない資産価値が厄介である。コカ・コーラはノーブランドの黒くて甘い炭酸水より高額で売れるし、それは会社の価値なのだが、これまで培ってきた会社の良好なイメージは数値化できない。だから、業績の差以上に株価に差が出る場合には、この手のブランドイメージによる差も少なからずあるのだが、それではその株式時価総額の差は正当か? という問いに答えることはなかなか難しいだろう。効率的市場に従えば、おそらくその時価総額の差は正しく企業価値の差を反映している。これが誤っているかどうかはよく分からない。

 

 □私個人が好むのは、この手の超過収益力に乏しい企業だ。もちろん投資先としては本当はあまり魅力的ではないのかもしれない。しかし、リスクの管理という点で企業価値を推定しやすいことは、適切な株価を推定しやすいことにつながる。大きく儲けたいのであれば、お勧めできないが、安全域を取った投資を行いたいのであれば、価値の推定はなるべく厳密にできた方が良い。そして、厳密に計算した企業価値よりも数倍程度本来の価値が離れていればかなり安全域が大きいと考えることができる。

□実質PBRランキングなどで検索すると含み益も考慮した時価での資産価値に比して割安な銘柄が出てくる。それぞれに対して割安な理由を説明できると良い。JR東日本はコロナで落ちている。倉庫株はもともと地味で不人気だ。知多鋼業は地味だし東証二部で一日の出来高(売買数)が少ないので流動性プレミアムが低いために割安だ。流動性プレミアムとは売買しやすいものの方が高いということだ。株式の良さはすぐに売買できるところにある。売りますといってから一年売れないとかであれば、株式への投資閾値はもっとずっと高くなるだろう。ファーストリテイリングみたいに大きな会社で指数にも入っていると出来高も当然大きいので売りたい時にその値段でぱっと売れる。しかし名証二部単独上場で時価総額も100億円未満などの地味な企業であれば買いたい人も売りたい人も少ないので、大量に保有していた場合に一気に売ることが困難になる。これはちょっとやりにくいので、嫌だなと思うだろうし、嫌なものは割安になる。

□資産価値が目減りしていくことが見込まれているから、割安に放置されているのであれば投資の対象にはしにくい。黒字続きであれば(※厳密には営業キャッシュフローが黒字続きであれば、なのだと思う。利益というのは実際に入ってきたお金について言う言葉ではなくて、会計上の発生主義と言われる考えによるからだ。キャッシュフローは実際に入ってきたお金を見ている。稀に粉飾決算などが話題になるが、キャッシュフローはいじりにくいらしく(実際にお金を無から生み出せないから仕方ない)粉飾しにくいようで、そんな点でもキャッシュフロー計算書を見ましょうなどと話す人もいる)

□私個人としては、資産価値が年々積み上げられていくものが好きだ。しばらく赤字を計上していないものが良い。爆益よりも安全域を大切にしたいからだ。あまり赤字にならないために、今後も資産価値が順調に上がっていくと思われる企業で、割安な理由が理解可能で(コロナで一時的に業績がどうしても落ちてしまう、流動性プレミアムに乏しいため、会社のイメージが地味、劇的な成長を望めなさそうでせっかくリスクを取って投資する先として魅力に乏しく積極的な選択の対象にならないなど)、解除可能であれば良い。または解除可能でなくても何らかのきっかけで上昇するかもしれないと思えれば良い。極限まで割安であれば(注意してほしいのは、繰り返しで申し訳ないが、ここで話す割安は指標的な割安ではなく価値としての割安である。PBR(時価総額と資産の比)がいくつだから割安、という単純な話ではない。業績が一時的に振るわなくても、少なくとも赤字にはならないし、今後も資産価値がつみあげられていくことが予測されている。それにもかかわらず、一時的な要因でもともと割安であるのにさらに割安になっていて、事業価値が黒字なのに事業価値がマイナス評価になるくらいまで売り込まれている、そんな銘柄の話をしている。例えば最近までのSECカーボンがそうだった。)

 □解除可能な原因でなくても良いというのは、たとえば秋頃までの那須電機は資産価値に対してきわめて割安な状態で放置されていた。しかし、この企業は実際には5G関連企業であったし、水素吸蔵合金を手掛けていたので、何かのきっかけで暴騰する可能性が十分にあったし、その割に下値は資産価値を考慮すれば十分に割安なレベルだった。また、最近話題の親子上場解消関連銘柄も持っていればいつかTOB(買収されること)されるかもしれない。(しかし私はあまりその手の銘柄を持っていない。資産価値に比較して異常な割安さであれば購入を検討するだろうがまだあまり調べていないし、そもそも買い付け余力もない。)

□購入するタイミングは毎日回診して、何かをきっかけに上昇に転じたところをジャンピングキャッチでも良いのかもしれないし、タイミングについては私は詳しくないので分からない。下落トレンド中に買うことは一般的には推奨されていないので、相当価値の推定に自信がある人以外は見つけた企業を毎日確認して上昇トレンドになったところで購入した方が吉だろう。多くの場合は市場が決定した価格の方が正しいのだから。

 

■アートに自分のお金を掛けられるかという話

 □上記のように資産価値については推定をかなり理解の領域で語ることができる印象がある。一方で事業価値については、事業がどの程度成長するのかを推定するというのがアートの領域なのでなかなか手を出しにくい。事業価値についてはDCF法などで推定できるが、式を調べるとアートの領域が多いことがわかると思う。事業の成長率を推定しなくてはならないからだ。私は事業価値をDCFで算出することが多いが、大体はゼロ成長として計算している。また成長株で一時的に設備投資などがかさんだ場合で、フリーCFがマイナスになってしまうこともあって事業価値の推定が困難になる。とりあえず営業利益で代用したりしてみるが正しいのかどうかは分からない。計算するなら成長株の部類に入るものは数年間のX%の営業利益の成長とその後のゼロ成長を組み合わせて算出することにしている。しかしこの想定についてどれほど正当性があるのかは分からない。正当性がわからないものには大きくベットできない。私は賭けではなくて、堅実な運用をしたいからだ。

□また、私はテクニカルには疎い人間だ。テクニカルはチャートがどうなったから売買をどうする、といった類の売買手法である。テクニカルは損切の時にくらいしか使っていない。直近安値を下回ったら市場の判断がきっと正しいのだろうと思って損切する。また下降トレンドではなるべく買わないことにしている。(しかし購入してしまうこともよくある。)

□業績の推定が難しかったり自信が持てない場合に資産バリュー株の購入が正当化される。私はセンスに頼らずに理解に基づいた売買をしたい。資産価値が比較的大きくて、業績もまずまずしっかり黒字が出ているのに、時価総額から資産価値を除いた時の残り=事業価値がほとんど無視されている銘柄を購入している。必ずしも純粋な資産バリューではない銘柄はそのようにして選択されて購入したものだ。爆益を望むものは事業価値の推定に秀でることを目指すことを勧める。しかし、それは期待されていたほど事業の成長が大きくなかった時の爆損に耐えるだけのリスク許容度がある人間と利益の成長率の推定に自信があるものが目指す領域だと私は考えている。