ぶたびより

酒を飲み、飯を食べ、文を書き、正解を生きたい

購入株振り返り:レイズネクスト

長文なので先に要点:

レイズネクストはプラントメンテナンス会社。新規の設備投資よりもメンテナンスの方が景気に影響されない印象があり安全そう。財務状況は良好。最近合併して業績がパワーアップしているが、今後どのくらい業績が上がるがよくわからないので合併前の業績でしかも成長は全くしないという設定を置いて理論株価をDCFを利用して算出した。これはかなり厳しい推定だと思う。結局この計算ではフェアバリューからやや割安程度の株価となる。実際にはもう少し業績が良いのでかなり割安な水準のはずである。さらに高配当銘柄でもある。景気の影響を受けにくい業種が地味で不人気なために割安に放置されているのであれば購入に値する。

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レイズネクストはプラントメンテナンス会社。新規に何かしら作るタイプの業種よりメンテナンス業の方が業績も安定しているのではとのことでメンテナンス業のバリュー株を探していたところ発見した。2020/11/20現在PER予測 8.83(実績4.87) PBR 0.93と指標的には割安な水準。IRBANKやvaluation matrixで確認すると自己資本もどんどん積みあがってきているので問題なさそう。2019年に新興プランテックとJXエンジニアリングと合併したため、それ以前との業績の比較が難しい。合併後から業績は大幅に伸びている。それはそうか。

理論株価の計算はディスカウントキャッシュフロー法で行う。東証一部でTOPIX採用銘柄でもあるので、DCFでの計算も対TOPIXでのβを使用することとする。ロイターのページをみると無料でβを検索することができ、ここで0.64と出てきた。しかしこれが何と比較してのβなのか不明だった。念のため楽天証券で検索すると、指標のところで対TOPIXでβ 0.93と記載されていた。こちらを今回は利用することとする。リスクフリーレートは長期の国債金利として、現在ほぼゼロなので0%で計算する。借入金の金利は2%に設定1)。マーケットリスクプレミアムについては7%程度に設定するのが一般的なのではないか。2)IRBANKを確認して、10年前後だとフリーキャッシュフロー(FCF)は10-12億円/年程度だった。自己資本比率は67%。今後成長することを見込んでいるらしいが、この辺りについてはよくわからない。確かに合併によって事業規模も多くなったしその効果もあるみたいだけれど、成長性の評価はできないのでゼロ成長で計算する。しかしこれは実際にはかなり辛口の評価だ。成長はしなくても合併後からのフリーキャッシュフローのみで本当は評価すべきだろうから。

 特に割引率について説明を挟んでこなかった。未来にもらえるお金の価値は、現在にしてみると割り引くべきなので金利をつけようという考えである。例えば私と一緒に小児科研修をしている研修医が奨学金を返済できなくて困っている。ここで、私が一年後に返済できるならと100万円を貸すとする。彼がバックレる可能性が、10%あるとする。この時期待値的には1年後の私のお金は90万円になってしまう。10%の確率で夜逃げされても大丈夫なように金利を設定しないといけない。さらに敢えて負わなくて良いリスクを負うわけなので、10%分を上乗せされても実際うまみがない。損失の恐怖と獲得の喜びは金額が同じでも気分が非対称になる。これを補正する分のプレミアムを乗せないと金融商品として成立しない。3)金利を設定することと、未来にもらえるお金の割引率を考えることは同じことである。

事業価値は上記のような割引率(r)を考慮してFCF(営業で実際に入ってきたお金から投資に使ったお金を引いた分、実際に企業にその年に入ってきたお金)を無限まで加算すればよい。(つまり、一年目はFCF円、二年目は本当にそのお金だけ稼げるか不明なのでFCF/(1+r)円、三年目はFCF/(1+r)^2、……。未来になるにつれて得られるお金を減らしていく。これは初項がFCF、公比が1/(1+r)の等比数列の無限までの和であるから、FCF/rが事業価値になる。

しかし、割引率は銀行と株主で異なっている。銀行はお金を貸しているわけで倒産しなければお金が返ってくるのでリスクが株主よりも低い。だから上記のように2%程度となる。一方で我々株主は倒産しなくても目減りする可能性があるので、もう少し期待される利回り・割引率は高く設定したい。どの程度にするべきだろうか。

一般に株主の要求する割引率はCAPMで算出される。CAPMでは、インデックス投資の期待利回りとの差(β)とインデックス投資の期待利回りとリスクフリーレート(10年国債)で算出する。リスクを取らない時の金利にインデックスの利回りからリスクフリーレートを引いてさらにどのくらいインデックスと連動しているか(β)を掛けて算出する。レイズネクストでは0+0.93(7-0)=6.5%が株主分の割引率になる。

レイズネクストは自己資本比率が67%なので、67%分については株主の持ち分であり6.5%の利回りを要求する。そして、残り33%は銀行からの融資なので2%の金利とする。すると、全体では6.5%×0.67+2%×(1-0.4)(法定実効税率)×0.33=4.75%の割引率となる。事業価値は厳しめの見積もりでも10‐12億円/0.0475=210-252億円となる。ここに資産価値を加算する。ざっくり流動資産と投資その他資産の和が910億円。これが換金の容易な資産と考える。ここからすべての負債を差し引いて手残りが520億円。企業価値は事業価値+資産価値なので、750億円程度がゼロ成長ならフェアバリューのはずだ。(ロイターのβを使用すると850億円程度になる。)合併により事業価値が増大しているので、合併前のFCFで考えたゼロ成長モデルでもフェアバリュー~やや割安になるのであれば実際にはかなり割安圏なのだろうから購入して良いと考えた。

安い理由としては合併してから年数が浅く合併後の事業価値の正確な分析が難しいこと、業種として成長が見込めない(日本の人口減少とともに石油製品の消費量も減少するはずで成長しないからこそ合併しているのだろう)から投資先として魅力がない、とにかく地味。などだろうと考えている。ゼロ成長で考えているので、あまりにも大きなマイナス成長だとさすがに投資先として魅力が減衰する。日本のプラントは老朽化が進行していて今まさに稼ぎ時のようだが、今後現在の新興国に進出する見込みがあるのだろうか。そのあたりが不安。有価証券報告書を見るとタイ、インドネシア、中国に連結子会社があるので国内のみで生き残るつもりはないのかもしれない。

sr20_4.pdf (raiznext.co.jp)

 

成長性がない、ひょっとしたら斜陽産業かもという不安があるけれども、メンテナンスがメインという業態からも安全性が高いように思う。直近の決算資料をみても、メンテナンスの需要はコロナ禍があっても底堅いことがみてとれる。上述したように財務も堅い。また配当性向40%としていて、配当利回りも4%を超える。最近下落していたので、少しずつ増やして組み入れ比率が10%程度になった。

 

1)日銀のレビューの負債コストについての記事で1.5%程度だった。厳しくあえて2%とした。(本当は銀行からの金利も支払利息と負債残高から計算した方が良いのだろうが面倒だった)

2)TOPIXの平均値のPERから計算する。PER(TOPIX ave.@2020/11/20) 27.57である。数式的にはPER=1/(割引率-成長率)で定義されるので(注:本当は一株あたりの“フリー”キャッシュフローなのだと思う。PERは発生主義的な営業利益での計算になる。しかしPCFRの分子は営業キャッシュフローなのでこれでは流用できないはず。PFCFRが不明ならPERで代用するのが無難のように思う)、成長率が不明だと割引率を推定できない。成長率もおそらく、TOPIX平均を利用すればわかるのだと思われる。ただ、一般には5-7%程度に設定するらしいから今回は厳しく7%の割引率とする。

3)俗にプロスペクト理論などと呼ばれるアレ。損失の方を大きく捉えてしまう。サイコロで1の目がでたら100万円もらえるがそれ以外の目がでた場合には10万円とられるゲームの参加費が7万円なら参加するべきなのだが(100×1/6-10×5/6>5)、10万円の損失は結構苦痛なので期待値的に勝てると思ってもなかなかやりたくない。

小児の中耳炎診療

【説明と同意】

小児科医ではないのでガイドライン以上のことはしりません。個人的勉強のための文章です。自己責任で診療してください。

同意する 同意しない 署名(または記名捺印):

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 いくら小児科研修中に衛生意識の向上から所謂風邪が減ったとしても、普通の小児が予約外で受診する時の理由のほとんどは上気道症状や発熱である。本来ならば上気道炎についてまとめてから中耳炎診療に筆を進めるのが順序としては正しいのだけれど、それは僕の勉強にあまりならないので割愛する。中耳炎はほとんど小児科でしか診療しない疾患なので個人的にきちんと診療できているのか(主に耳鼻科への紹介タイミング、抗菌薬処方閾値が適正か)あまり自信がない。一度まとめておこうと思った。

 個人的には国内のガイドラインを読む、海外のガイドラインが利用できそうなら眺める。Dynamed PlusなどのEBM支援ツールを利用する。レビュー論文のうち被引用数が多いものや有名な査読付き雑誌に記載されたものを眺める。気になるものは孫引きする。(興味ないし気にならないので滅多にしない。)というように調べることが多い。特に感染症診療でガイドラインを見る時には国ごとの耐性菌の問題の違いがあったりするから難しい印象がある。

 本邦のガイドライン1)はインターネット上で簡単に入手できるので以下にURLを貼り付けておく。80ページ(pdfの88ページ)あたりから小児の急性中耳炎の治療アルゴリズムが描かれている。まず重症度を分類して、軽傷であれば3日間経過観察。経過観察で改善しない場合にAMPC 90mg/kg/day分2(またはCDTR-PIとなっているがここに第三世代セファロスポリン系抗菌薬を入れるのはどうなんだろう。吸収効率の悪い抗菌薬を移行性の悪そうな中耳の内部に対して用いてどのくらい効果が期待できるのだろうか。そもそも最近ではDU(だいたいうんこ)薬などと言って積極的に処方しない薬剤のはずだ。いやわかるよ、BLNARのカバーのためなのだろうが、もともと自然軽快することも多い疾患であれば経過観察→AMPC一択で良いのではないか。ペニシリンアレルギーがないなら。)またここで治らない場合に高容量AMPCとなっているが、成人の市中感染症診療になれた身としては中途半端な容量でまず始めるという感覚がよくわからない。中耳炎で培養を採取して起因菌を確定することは困難なはずだ。AMPCが奏功しなかった場合にそれが抗菌薬のスペクトラムの問題なのかどうかわからないと治療方針に難渋するのではないだろうか? そもそも中耳炎と診断して経過観察をされている児を今までに見たことがない。「BLNARが問題だから!」といって抗菌スペクトラムを広域にする前に必要なことは抗菌薬処方閾値を適切にすることではないのかと感じてしまう。

 まあそれは公衆衛生的な話、目の前の患児に明らかな抗菌薬処方適応があってBLNARも考慮、となった場合について考慮しなくてはならない。つまりCVA/AMPCが奏功しない時について(CVA/AMPCが本当に奏功しない時について)である。感染症は奏功しない時には増悪するからだと思うのだが、軽症にはこの先のステップがない。中等症の場合にはAMPC高容量またはCVA/AMPCで開始して、ダメなら鼓膜切開を併用するような流れになっている。だからCVA/AMPCで奏功しない場合にはもう耳鼻科送りで良いのだと思う。(完全に偏見なんだけれど耳鼻科医って外科医だから切った貼ったが好きで耳鼻科医をやっているのだと思っていて処置のないものを送り付けることにためらいを感じてしまう。めまい診療とか嫌いそう。メンタルの人多いもの、めまい。抗菌薬投与のみで保存的に加療できるかどうかを判断するところまではgeneral physicianの仕事なのかなと考えている。)効果判定の時期については投与後3-5日程度のようだ。

 何の説明もなく先に出していた重症度評価については37ページ(pdfで45ページにあたる)に記載がある。鼓膜所見上中耳炎だと診断した時点で、つまり膨隆と発赤があると思った時点で6点になるからすでに中等症になってしまう。うーん、となるとここで言う軽症にあたる中耳炎は実際存在するのだろうか。抗菌薬フリーで経過をみている中耳炎が全然ないというのは、単純に軽傷に区分される中耳炎患者がほとんどいないようなスコアリングになっているからではないか。滲出性中耳炎がもともとあって、耳鏡での診察を嫌がって泣き叫んで鼓膜が赤くなっているだけの人、だけが急性中耳炎の軽症に分類されるのではないかと思ってしまうくらいだ。

 次に米国小児科学会(American Academy of Pediatrics;AAP)の推奨について確認してみる。BLNARの比率などにおいて違いがあるだろうから、抗菌薬の選択については必ずしも本邦において正確ではないだろうが、処方閾値等は参考にして良いと思われる。したがって以下にはAAPの処方閾値を引用する(拙訳)

【抗菌薬の適応についてAAPの推奨】2)

抗菌薬の絶対的な適応:

 6か月未満の児

 リスクを増大させる合併症を持つ児

  具体的には

   頭蓋や顔面の奇形(口蓋裂など)

   免疫不全

   鼓膜寒気チューブ留置中

    (tympanostomy tubeって和訳これでいいですか?)

 6‐24か月の児について以下のいずれかがある

  中等度から高度の耳痛

  48時間以上持続する耳痛

  体温39度以上

頻回フォローまたは抗菌薬治療いずれでも可:

 上記適応に該当しない片側の急性中耳炎の児

 両側の6‐24か月の児

 あらゆる24か月以上の児

 

 結局のところ、抗菌薬の適応についてはAAPのガイドラインを基準に考えつつ、ペニシリンアレルギーがない場合にはAMPCまたは重症度に応じてCVA/AMPCあたりを第一選択として、耳鼻科的処置の必要かもと思った場合には迷わず紹介というのが良いのかなと思いました。

 

1) 小児急性中耳炎診療ガイドライン2018

https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2018.pdf

 

2) Allan S Lieberthal et al. :The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media Pediatrics. Pediatrics March 2013, 131 (3) 

https://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/131/3/e964.full.pdf

購入株ふりかえり:知多鋼業

この文章を読んで損失を被っても筆者は一切の責任を負いません。

 

追記:利回りはDCFではCAPMで求めるのが一般的なんだと思いますが僕は市場別のPER平均で補正するべきではないかとこの記事を書いた時に述べていました。これは株式市場への期待利回りが上場している市場によって異なるのではという話です。

 

訂正:日経平均は株価平均型で時価総額加重平均ではありませんでした。うまく説明できませんが時価総額加重平均の方が良さそうなので、TOPIX名証二部の平均PERを出せると良いのだと思いました。

 

 誰も見向きもしない銘柄が好きだ。限界まで下がっているからリスクが低い。誰も見向きもしないだけではちょっと足りない。業績が比較的安定していて少なくとも赤字が10‐20年間一度もない、といったことを求める。資産バリュー株であることも求める。換金性の高い資産(売掛金と現金と有価証券、時々莫大な含み益のある不動産)が多いと安全性が高まる。しかし、流動性の低い銘柄ばかりだと損切ができないので、ポートフォリオの組み入れ比率をあまり多くするのも考え物かなと思っている。だからすべての資金を小型で流動性の低いその手の限界シケモク銘柄にいれることはできない。当然オリックスとか三菱商事みたいな流動性の高い(キャピタルゲインが狙えるかわからないけれど)高配当バリュー株にも投資することになる。

 知多鋼業は車のバネを作っている会社だ。事業内容は地味だから、何年後かに10倍の利益を出すなんてことは絶対にない。夢がない。しかし株式投資の本来の意味を考えると、1%ある会社の株式を保有しているということはその会社の資産も含めて1%保有していることになる。10年で資産が2倍になったのに株価が同じならば、企業の価値からみると株価が半額セールしているようなものだ。知多鋼業はそういった意味でバリュー感が非常に高い。配当は2%強なので可もなく不可もなく。しかし下値が限定的だと思える銘柄というのは良い。銀行に預けるよりもはるかに増えるし、コロナ前くらいの株価までは戻す可能性がある。

 知多鋼業は組み入れ比率が8%程度。株式投資につぎ込む金額がもう少し増やせれば引き続き8%程度となるようにチマチマ購入していきたい。赤字になったら売りだ。株価が上がらないのに資産が増えていくので購入しているわけであって、いくら割安でも価値が目減りしていくものには投資できないからだ。

 

■おまけ:理論株価計算とか

知多鋼業が大幅に業績が上昇することを僕も含めて誰も期待していないように思う。それでもコロナ禍であっても赤字を出していないのは正直すごい。さて、知多鋼業について企業価値をDCFで計算してみることとする。IRBANKの情報を参考にすると、2009年から2021年予測までの平均で営業CF 10.2億円、投資CF 5.3億円からFCF 4.9億円/年となる。成長しない企業と仮定すると、FCF×期待利回り^(-1)となる。ここ期待利回り(=割引率)というのが非常に厄介。個人的にはこの期待利回りを厳密に計算できればかなり質の高い企業価値の推算が可能だと思っている。感覚的にはどこの市場に上場されている銘柄なのか(東証一部か名証二部かでPER平均が違うはずなので、市場による期待利回りの補正が必要だろう)、業界(景気敏感性などの補正になる)あたりで良いように思う。本当はさらに財務状況(自己資本比率が高いと利回りを高く設定するべきなのだと思われるが、どの程度高くすれば良いのかよくわからない)を加えると良いのだと思う。だから方法としては名証二部銘柄の平均PERを算出する(それぞれの企業の時価総額で補正するべきかどうかは検討の余地あり)してPER(M2)とする。次に東証一部銘柄の平均PERを算出する。(あるいはここで日経225を用いるとしたら時価総額で加重平均PER(M2)もそのようにすべきだ。一番楽なのは日経225だと思われる)仮にPER(N225)を算出したとして、PER(M2:ただし時価総額加重平均)/PER(N225)×N225銘柄の自動車部品企業(そんなものがあるのか?)のPERで適切な理論的知多鋼業PERが算出される。さらにPER=(割引率-利益成長率)^(-1)であるので、利益成長が0であるならば割引率とは理論的に適切なPERの逆数を用いたらよい。

 

知多鋼業のDCFによる事業価値={PER(M2加重平均)/PER(N225)×PER(N225の自動車部品会社:なさそうなので実際にはPER(N225)ではなく東証一部上場企業の時価総額加重平均を用いる必要がありそう)}×FCFave.(=4.9億円)かりに期待利回り20%くらいに設定すれば事業価値は5年でモトを取らないといけないので25億円、資産価値として換金性の高い資産(有価証券と現金と売上債権)が135億円、負債合計が37億円なので資産価値は100億円。とすると企業価値は125億円なのだが、株式時価総額が60億円に過ぎないため半額の状態ということになる。安い理由は地味で期待されていないからだ、解決はされないけれど健全で割安なので2%だけの配当を貰いながらじっくりホールドしておこうと思っている。しかし利回り20%の企業がこの株価で永遠に放置されることがあるのだろうか? あまりにも放置され続けるならTOBMBOも期待できそうだが、そもそも相続税対策の上場であればずっとこんなものなのかもしれない。

 

利回り計算に使う補正のための定数をきちんと調べるのが面倒でできていない。今後行いたいと思う。

新規購入株の話:安田倉庫

この文章を読んで損失を被っても筆者は一切の責任を負いません。

 

 ずっと前から倉庫株を購入しようと思っていた。僕の好きな銘柄は結構偏っていて、バリュー株がメインなんだけれど、そのうち赤字に滅多にならないこと(コロナショックでもチャイナショックでもリーマンショックでも黒字など)、財務的にリスクの低いこと、換金性の高い資産(含み益を考慮)から負債を引いた値と株式時価総額を比較した時に割安と思えること(ネットネット株でなくても良いけれど)あたりだ。そこに景気に関係なく利益を上げられるモデルがあるとなお良い(携帯電話のキャリアとかメンテナンスとか官需がメインで景気の影響を受けにくいとか)。

 実は最近インフレ対策に現物資産があった方が良いのではないかと感じていた。これだけ金融緩和を行って貨幣価値が同じままだとはちょっと考えにくい。しかし金利は安いままだろうから、医師免許を利用して社会的信用から負債を得てレバレッジをかけて不動産を取得する、など。楽待に登録して物件を探してみたが、フルローン金利1-2%として管理費・修繕積立金を引いた額が手元に残るとすると、ほとんど手残りがなくて融資期間内(残りの減価償却期間)までに返済ができる物件がなかなか見つからない。さらに空室リスクを考慮すると話はもっと厳しくなる。不動産投資の物件探しはかなり難しい。というか、そもそも株もそうだけれども売りたい人がいるから売買が成立しているのだ。何かしら瑕疵があるかより良い運用方法を見つけたからその不動産を売却したいのである。

 インフレ対策に現物資産の組み入れでリスクヘッジというのは誤っていないはずだ。ところで、企業の資産評価をするときに今まで換金性が高い資産を重視することが多かったから、不動産の価値をあまり考慮していなかった。しかし、現金リッチな企業は単純にため込むだけため込んで経営上有効利用できていないだけだし(不況には強いし、もともと誰も見向きもしない銘柄ばかりで下値が限定的だから僕みたいに本業で安定的に稼げるから大きくもうからなくてもいいしリスクも別にそれほど取りたくない、みたいな人にはきっと良い)、インフレ時には微妙なのではないか。不動産が購入できなくても、良い不動産を持っている企業に投資すればよいのではないか、と考えた。それも不動産業をメインとうたっていなくても営業利益のうち不動産収入が占める割合が高い企業はちらほらある。高島屋とか。

 実質PBRのランキングというのを以前に見た際に倉庫株が上位に多かったことから、何かしら倉庫株を購入しようと決めた。実質PBRは取得時ではなくて現在の土地の価格で補正したPBRになるのだが(必ずしも土地含み益でなくて、有価証券含み益だったりするのだったと思う、たしか。岩塚製菓が自分の時価総額をはるかに超える有価証券を持っているとか。)もともと不人気な倉庫株は実質PBRでさらにバリュー感が増す。倉庫株以外にニッピも候補に挙がったのだが、配当利回りが許容できないレベルに低いことと、飲むコラーゲンというものにそれってエビデンスあるんですかという気分になってしまって気が進まなくてやめた。また、最近ニッピは大阪の難波地区の土地を賃貸することが決まっているが、IRを見た限りではそれほど業績に大きな影響はないとのことでなんだせっかく良い土地もってても大して金にならんのか、みたいな気持ちもあって断念した。次に三菱地所は大型株だから損切はしやすいけれど機関投資家の目が入っているのである程度効率的なマーケットで正確な企業評価に基づいた株価になっていると判断して購入しないこととした。JR東日本でも良いのだが、コロナで業績低迷の真っただ中にあり、今まさに落ちるナイフ状態なので少し手を出しにくい。また金額が比較的大きいので100株購入しただけでポートフォリオの中で結構な比重を占めてしまうことも問題点だった。消去法的に倉庫株が残った。複数の倉庫株を比較して、自己資本の上昇がもっともきれいで、赤字がなく、不動産含み益もあり、横浜のカジノ案件などのカタリストがあって優待(お米2kg分のお米券)+配当の利回りで考えるとそれなりだなと思えたのが安田倉庫だった。また、倉庫株は流通事業をやっているのでコロナ禍下で進行したEコマースの恩恵を受けられるのではないかな、などと思った。安い理由はやはり地味だからなんだろうな。倉庫ですよだって。アマゾンのデリバリープロバイダとして有名になって株価が上がった遠州トラックは住友倉庫の子会社ですものね。しかし住友倉庫もニッピ(大倉財閥系)も安田倉庫も旧財閥系のはずで、ここら辺の企業は永遠にお金持ちなんですね。

 

おまけ:

理論株価推定とか

→IR BANKを確認すると、2008年から2020年までの平均ではフリーキャッシュフロー(FCF)がほぼゼロ、若干マイナスになっている。(営業キャッシュフロー 46億円/年、投資キャッシュフロー 47億円/年のため 46-47で若干マイナスになる)DCF法で考えて過去13年分の業績が今後も持続すると考えると得られるFCFがマイナスなので、理論株価がゼロというかむしろマイナスになってしまう。事業が拡大しているところなら良いのかもしれない。2018年頃までは営業利益が20億円強だったのが、2019と2020年は30億円前後に上昇している。事業への投資がまさに増えんとしている時にDCFで計算してもマイナスなのは仕方ないのではないか。(リース業なんかもCFで評価できないですよね。だからオリックスよくわからなくて難しいんだ。)

 安田倉庫は土地の評価額が470億円、換金しやすい資産として預金60億円+受取手形・営業未収金の合計130億円+投資その他資産420億円になる。土地はよく銀行から不動産投資の時に融資を受ける場合に80%減らして積算価格を出すので、420×0.8倍として保守的に評価する。貸借対照表を見ると、負債の合計は630億円。土地を保守的に換金した状態で資産価値を評価して、負債合計を除くと、470×0.8+130+60+420-630=316億円となる。現在この会社の株式時価総額は951円/株×3036万株=290億円で316億円より安いので事業価値がゼロであっても割安である。

 企業の価値は事業価値と資産価値の和である。事業価値がマイナスだと資産が目減りするのでいけない。FCFの10年程度の平均がマイナスだけれども営業利益はずっとプラスで、2018・2020あたりの投資CFがでかいことから平均FCFがマイナスになっている。社債発行してみたり、メディカル物流倉庫を新規に作ったりしていて、ちょうど今まさに事業拡大の途中だからこれは仕方ないのではなかろうか。

 事業価値=営業利益×(1-法人税率)×期待利回り(=割引率)^(-1)という式があったはずだが、これで計算しても営業利益がマイナスではないのでどうしたって割安になってしまう。FCFの平均がマイナスなのに営業利益がプラスであることだけがひかっかることになるわけだが上述した理由によりあまり心配していない。今後物流業界に期待できると考えて、投資された資金の回収見込みがあり、不動産含み益が莫大で安定した不動産収益がある資産バリュー感+物流のグロース感が強く感じられるならばここは購入に値するのだと思う。

 

そういえば楽天の記事で安田倉庫が紹介されているのを見ました!! いいですよね倉庫株 しかし優待利回りで考えると家族みんなの名義で所有したいところ。優待銘柄は多く持つと利回りが低下してしまうのが残念なところですよね、いや嬉しいんですよ、優待。

media.rakuten-sec.net

動く幸せ

 今年はインフルエンザワクチンを打ちたい人が異様に多い。みんなが手洗い・マスクをして風邪症状があったら仕事を休むという状況が続く時にインフルエンザの流行が起こるのかというと疑問だ。現に南半球では流行がなかったという話も聞く。COVID-19罹患するのが心配なので、というのは理論として破綻している。そういう人は自動車事故が心配だと火災保険に入るのだろうか。まー本人が満足ならそれでよいか。

 先日アパートのポストのうち一つが破裂しそうだったので、だれか退去した人がいるのかなと思っていたら自分の部屋番号だった。中に一時話題になっていたアベノマスクとやらが入っていてやっと時流に乗れた気分。わーい。

 そういえばアベノマスクはいらない! というアンチの方々が知的障害者施設にマスクを送るニュースを以前にみかけた。もらった側の気持ちはよくわからない。自分のイデオロギーに反しているから不要であり、さらに他人にとってどれほど有用なのかよくわからないものを送り付ける行為には子供っぽい身勝手さを感じる。しかも政治的信条などはないだろうということで(?)知的障害者を贈り先に指名することがまたまた一層気持ち悪さを助長する。また、そのマスクをもらうに至った経緯が理解できないけれど、何となくマスクをもらってありがたい的な気持ちに彼らの一部でもなっているのかもと思うと、思考能力と幸福の感覚というのはてんでばらばらに独立した因子のようだ。

 そういえば、インフルエンザ予防接種を受ける人が多いので、例年には受けない人も混ざっている。僕は総合診療医なので、吐息がタバコくさくて痰がらみのある人にはよく風邪ひくと長引きませんかとかCOPDっぽさを何となくスクリーニングして次回につなげている。肺炎球菌ワクチンを打ってない人もいる。今年の予防接種外来は普段外来に現れない人も来てくれているのである意味健診としては良い機会になっていて、収縮期心雑音とか下肢浮腫とか労作時呼吸困難とかをひっかけて外来受診を促している。

 本人が幸せならば、なんて言うし僕も他人の人生に干渉するのは好きじゃないから結構好きに酒のんで死んだらいいと思っているんだけれど、思考の立ち位置が永遠にずれないのか、ということをたまに考える。喫煙してラーメンはスープまで飲んで早死に上等の高齢者が初孫ができても同じ気持ちなのだろうか、早死に上等といいながら脳卒中になって片麻痺車いすで10年生きることを想定しているのだろうか、など。

 他人の無知にフリーライドすれば仕事は減る。薬くださいと言えば出せばよいし、禁酒する気がないというなら放置したらよい。でもそういう割り切りの先に自己肯定感があるとも思えないんだよね。そして私も今の自分の立ち位置にずっといるわけではないんだよな、と思う。

 高校生の頃に看護師になりたくないと言っていた妹は、現在勉学に励んでこなかったのに、都内でそこそこの生活をしたいと思ったときに看護師資格は役に立つし結局良かったなどと話していた。(あと自分で適正があると思っているとのこと。適正があると思えることは良いよね。僕も今の仕事は適正があるように思う。ネチネチ考え続けること得意だし。)

 ADHDの子どもたちの診療をするようになった。はじめての処方はアトモキセチン。僕が飲みたいんだけれど、本当は。大人になると、僕も含めて衝動性や多動性が少しずつ落ち着いていく。注意欠陥が残ってもなくしても良いようにリスク管理を重視することで社会生活に適応したりしていく。

 立ち位置から少しずつ動いてくのだ。そう、部屋に置いた車の鍵も朝にいつも見つからない。しかし、あれはどうやって移動しているのだろうか。

損切りの話

一般的な損切りの話と自分の持っている企業の株を値下がり時にどこで手放そうかなというメモです。

 

 米大統領選挙を控えていることやヨーロッパの一部でロックダウン再開となったことから株価が下落基調になっている。株価が下落したときにいつも考えているのが損切りのラインだ。大きく負けないことの重要性をよく聴く。あとは、「もうこんなに損するのは嫌だ」と撤退しないでプラスの期待値の賭けに参加し続けることなど。

 ポートフォリオで下落率が高いのはSECカーボンオリックスだ。損切りラインについて、以前には買い値から5%下がったら無条件で売りと決めていたんだけれども、このルールに従うと特にボックス相場で微妙な損切りを繰り返してストレスが溜まった。企業価値と自分の買値は無関係だから買値からの値下がり率を基準に売買するのは根拠として弱いというのも確かにある。直近安値を下回る、という方がまだ良いのかもしれない。そうなるとオリックスは1130円くらいで、SECカーボンは5580円を明確に割り込んだら売りかな。ここで損切りするとそれぞれ3万円、6万円程度の損失になる。(オリックス損切りしても優待目的の100株はホールドのつもりでいる)しかし小さな企業のSECカーボンがそれで良いのかは悩ましい。

 流動性の低い時価総額も小さな東証2部銘柄と時価総額2兆円で流動性の良いオリックスを同じ損切りラインにして良いのかという問題はある。流動性の高い銘柄を地合いの悪くダラダラと下降トレンドにいるときにホールドするメリットはあまりないように思っている。というのも、損切りラインに達したところで一旦売却して、それでもどうしても良い企業だと思うなら毎日値動きを眺めて良いタイミングでまた入ったら良いだけで、ここにかかる精神的または実質のコストは損切りした途端に反転して上がってしまった時に機会損失をした気持ちになることと、売買にかかる手数料くらいではないのか。一方で地味で流動性の低い銘柄を地合いの悪い時に損切りするのはあまりいけてないように感じている。勿論購入した根拠が揺らぐ事態であれば素直に撤退するべきだと思っている。これまで不況でも黒字を維持できている割安株だからと購入したのにコロナで赤字をどっさり出したら暴落してても損切りしないといけないと思う。一方で直接その企業に関係ない米国株安につられてとか、株式市場のボラティリティが高くてリスクオフのムードから売られているとか、そういう株価の下落に対してアワアワして損切りするのは流動性の低い小型株においては微妙かなと。というのもその手の企業の株は板が薄いので一旦手放すとなかなか同じような値段で購入できないし、売る時も板が薄いからとても損な印象がある。1000株程度しか売買されていないのに株価がどかっと下がることもあるくらいですし。おすし。

 どこで株価が底打ちしてあがるかは絶対に予測できないし、おっ底打ちしたかなと様子見で買ったところが底打ちした値段なのかデッドキャットバウンスなのかは誰にも分からない。誰にも分からないことを分かると誤解することは愚かだと思う。ただ企業価値以上に売り込まれているかどうかはある程度判断できるように思う。暴落時に換金性の高い資産から負債を引いた額を発行済み株式数で割った一株あたりの価値が業績が悪化したとは言え黒字の企業において大幅に割り込んでいたらそれは底打ちしてなくても僕なら購入の対象にしてしまう。株式の良いところは流動性とか換金のしやすさにあるので、流動性の低い地味な銘柄はそれだけで嫌われる傾向にある。むしろ暴落時にこそ流動性の低い名柄を仕入れるべきなんだろうなと思う。

 そういえばこのブログに名古屋電機をチマチマ買い増してますという記事を書いたすぐ後に三菱UFJが名古屋電機の大量保有報告書を出して一気に上がってしまった。もう少し買い増ししたかったのに。予測可能なカタリストが特にない資産バリュー銘柄もたまにこうやって上がることがあるんだなと思った。ネットネット株まで行くとかなり不人気銘柄ばかりでそういうのも好きなんだけど、それなりに事業価値も大切にしたいので業種の地味さと流動性の低さから低PERとなっている企業も好き。ネットキャッシュ22.4億円で株式時価総額33億円になっている暁飯島工業を拾い集めていたのも、安定的に黒字を積み重ねて株主資本がどんどん厚くなっているからだ。赤字が出そうなら売るけれど、40%増益なので来期減益予測でも余裕で黒字となると絶対に売りませんね。個人投資家としては配当金と株価に目がいくんだけれど、よくよく考えてみると会社自体を保有しているわけなので、自己資本がどんどん積み増しされていて株価がそれに見合わない動きならば別にいつ購入して良いのだと思うの。どうせ市場での株価の上下は予測できないのだから。客観的にわかる資産価値と株価の解離に目をつけることは、コイン投げのチャンピオンよりは勝ちやすい気がする。株式投資を続けること自体、プラス7%の利回りを中心にリターンが正規分布するのでコイン投げやダーツで売買する長期投資家もほとんどの場合勝てるんだけれども、安全性を考えるなら黒字が続く資産バリュー株なのだと思う。あと僕は世間知らずだから、事業価値や成長性の評価が苦手なの。

 そう考えると、名古屋電機はそろそろ全ての持株を利確しても良い気がする。40%程度買値から値上がりしてしまったので、もとのバリュー感まで戻るのにこのままの自己資本の積み増しでは何年もかかってしまう。事業価値については評価苦手なのでしていない、インドでスマートシティ開発とかしてるらしいのでそのあたりを評価したいなら残り200株しか持ってないので遊びで持っていてもいいかなとか。知多鋼業は下がるなら買い増ししたい。86%減益だけど赤字にはなっていないし、86%減益の決算が出ても株価が微動だにしない。不況時に安心してホールドできるのはシケモク資産バリュー株の良いところなんだろうな。

 三菱商事は指標的に割安高配当株で流動性の高い大型株だからというだけでずっと購入しようと思っていて、そうこうしているうちにバフェットが商社株を購入したニュースが流れてきて値上がりして買えなくなってしまった。ここ数日下落していてバフェット以前の値段に戻したので購入した。脱炭素社会がどうとかの話もあって先行き不透明感が否めないけれども、資源価格に影響を受ける市況株の側面が大きい印象なのにそれほど業績悪くなかったのでインカムゲイン目的に購入している。損切りラインは直近安値2150円を割り込んだところかな。2.5万円くらいの損切りかね。

 現状だと損切り考えている企業はそのくらいかしら。那須電機鉄工はコロナでクソほど売り込まれてずっとだらだら下げていたのを最近25日平均移動線を明確に超えたところで購入した。流動性が低いので損切りはできない。購入した理由は5Gによる基地局増加、下がっていた理由はめちゃくちゃな減益(去年の利益に土地の売却益が含まれていたので)と流動性が低い買い手不在の銘柄に5G期待先行でイナゴがあつまって購入して爆死した、というあたりだと思う。

 日本インシュレは地味高配当安定した業績のバリュー株なので購入した。現金を貯め込みまくってる企業ではないけれど、こういう地味で堅実な高配当株を一つくらい持っていてもよいかなと思って購入してみた。流動性が低い小型株なので黒字である限り損切りはしない。

痛風の予感

 9月末から10月初めにかけて夏休みを取った。しかし誤って夏休み中に外来と当日直をいれていた。もとより3日間しかない夏休みである。週末とくっつけたとは言えかなりの日数を無駄にしてしまった。

 夏休みの直前には部活の同期女性の結婚式があった。不幸にも移動日前日が当直で当直中から痛風発作が起きてしまった。ろくに寝られない当直明け、右足首の激痛で目を覚ましながら4時間のドライブをして結婚式を行う地に前日入りした。”友人”がいないので、せっかくだから食事でもとなったのだが痛風なら日本酒とビールで尿酸をwashoutしたら良いとガバガバな理論を言われた。当直明けの働かない頭で妙に納得した私はとてもおいしかったので日本酒をべらぼうに飲み、めでたく痛風発作を増悪させた。ナイキサンによるNSAIDパルスも相まって胃痛と足首痛に悩まされ、ビジネスホテルのベッドでフィラリア症になったのかというくらいパンパンに腫脹した足を見てひとり後悔していた。短期的な視点による最善手が不幸な結果に終わることはよく経験される。結局結婚式では二日酔いで飲酒をほとんどせずに過ごし、翌朝には大学時代の後輩と温泉に行って足を温めた。好きな異性がいるようだったのでがんばってねと背中を押した。

 個人的には特定の女性に好意を持っている時は大抵うまくいかない。神聖化した相手とは対等な関係になれないからだ。結局のところ、ほとんどの場合はどんな相手でも初対面の段階なら代替可能だ。この人でなければ、みたいな思いは単純に自分の観察範囲の問題に過ぎない。それが思春期の時に好きだった相手とか、すでにねっちょり好意をはぐくんでしまったとか、そういう場合だけが代替不能になる。あるいは永遠に田舎にいて観察範囲が変化しないケースだ。先日モテない男性は女性を神聖化して、モテる男はミソジニストだという主旨の文章を読んで同意した。いずれが原因で結果なのかは不明だが、攻撃性やテストステロンレベルとモテなどの関係から何となく解釈できそうではある。モテる男性は自分に自信があってオラオラしていて、普段は優しくしていて、たまに女性を殴る、そんな偏見がある。

 痛風発作のせいで全く夏休みを無駄にしてしまった。合理的な判断は難しい。株式投資においてなぜ期待されるリターンがプラスなのかということに対する解は、損失を回避したいヒトの特性を乗り越えて投資してもらうためにリスクプレミアムが乗っているから、だろう。それがわかっていても、無駄な損切りをしてしまったり、あるいはこれは無駄な損切りだと思ってホールドしてから耐えられなくなって売ったところが底値で自分が売った途端に上昇するなどということもよく経験される。理論的に正しい解があっても、自分の知らない何らかの情報を他の投資家が知っていて何か自分だけが見逃している要素があってそれで下落しているのではないかという不安は常にある。けれどもそれを乗り越えて永遠にホールドし続ければ時間や銘柄を適切に分散していれば、運用利益は理論上のリターンに漸近するはずである。わかっていることでも、高いリスクプレミアムがつくものはそれだけ生理的に投資したくない銘柄だろうから難しい。那須電機とかSECカーボンを購入してしまったが売ってしまいたい気持ちに駆られている。

 投資も婚活も最善手を選びたいという気持ちが強い。投資はともかくとして1通りしか選べない婚活や人生の最善手は後になって後方視的に他の在り方と比較することができない。だから現在選んだものが常に最善手だと信じるしかなく、これは信仰の領域だ。信仰を生きよ! みたいな気持ちでいた。

 結婚は勢いよ!! などとはよく言う言葉であって合理的に考えたら我々は子供をつくるべきではない。金銭的なリターンは確実に少ないし、子供ができたときの感情は不確実性が高く予測不能だ。社会に適合できずに「あそこはオイシャの家なのに子供はニートらしいわよ」などと世間の目にさらされるかもしれない。マイホームを持つのも金銭的には失敗だ。掛け捨ての死亡保険に変えて、結婚せず、子供をつくらず、携帯電話を格安SIMに変えて、NISAとIDECOを最大まで利用して、外貨を含む手数料の安い複数のインデックスの投資信託に積み立て投資をして、酒もタバコもやらずに健康な生活をして、週末は丁寧な趣味に打ち込む。これが合理的な現代人の”正しい”生活だ。

 個体としての正しさと種としての正しさには埋められない溝がある。いくら思想が現代人としてアップデートされてもヒトのハードが変わらないのだから、正解を生きても幸福になれないのは道理なのだ。

 現代人としての最適解にきっと我々の幸福はない。その場で最善手を選んで夏休みを取得して、その場でお金が入るならとすべて忘れてアルバイトをいれてしまう。また、飲酒して痛風となる。結局夏休みは無駄になり、痛む足をひきずって私は病棟を回診する。

 株式投資も私の生もランダムウォーク理論のように、まったく先は予測できないし、そもそも予測しなくても楽しくなるようにしたい。そしてそれはきっと現代人としての思考の先には存在しない。またアルコールの先にも存在しない。

 なるようになる。先日話していたら、後輩の一人が「結局専門医制度なんてどうでもよい、ここまでに取得しなくてはというお尻が決まっている問題でもないし、取得したから給料が増えるとかそういう問題でもない。自分で勝手に立派になってどこかで取得できればそれでよいくらいの問題ではないか。」指導医氏らもまた同様のことを言う。

 もう少し気軽に生きよう。予測できた痛風発作に苦しむ私がそれ以上のパフォーマンスを思考することで人生に求めようとするのは実際不可能だろうから。