ぶたびより

酒を飲み、飯を食べ、文を書き、正解を生きたい

小児の中耳炎診療

【説明と同意】

小児科医ではないのでガイドライン以上のことはしりません。個人的勉強のための文章です。自己責任で診療してください。

同意する 同意しない 署名(または記名捺印):

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 いくら小児科研修中に衛生意識の向上から所謂風邪が減ったとしても、普通の小児が予約外で受診する時の理由のほとんどは上気道症状や発熱である。本来ならば上気道炎についてまとめてから中耳炎診療に筆を進めるのが順序としては正しいのだけれど、それは僕の勉強にあまりならないので割愛する。中耳炎はほとんど小児科でしか診療しない疾患なので個人的にきちんと診療できているのか(主に耳鼻科への紹介タイミング、抗菌薬処方閾値が適正か)あまり自信がない。一度まとめておこうと思った。

 個人的には国内のガイドラインを読む、海外のガイドラインが利用できそうなら眺める。Dynamed PlusなどのEBM支援ツールを利用する。レビュー論文のうち被引用数が多いものや有名な査読付き雑誌に記載されたものを眺める。気になるものは孫引きする。(興味ないし気にならないので滅多にしない。)というように調べることが多い。特に感染症診療でガイドラインを見る時には国ごとの耐性菌の問題の違いがあったりするから難しい印象がある。

 本邦のガイドライン1)はインターネット上で簡単に入手できるので以下にURLを貼り付けておく。80ページ(pdfの88ページ)あたりから小児の急性中耳炎の治療アルゴリズムが描かれている。まず重症度を分類して、軽傷であれば3日間経過観察。経過観察で改善しない場合にAMPC 90mg/kg/day分2(またはCDTR-PIとなっているがここに第三世代セファロスポリン系抗菌薬を入れるのはどうなんだろう。吸収効率の悪い抗菌薬を移行性の悪そうな中耳の内部に対して用いてどのくらい効果が期待できるのだろうか。そもそも最近ではDU(だいたいうんこ)薬などと言って積極的に処方しない薬剤のはずだ。いやわかるよ、BLNARのカバーのためなのだろうが、もともと自然軽快することも多い疾患であれば経過観察→AMPC一択で良いのではないか。ペニシリンアレルギーがないなら。)またここで治らない場合に高容量AMPCとなっているが、成人の市中感染症診療になれた身としては中途半端な容量でまず始めるという感覚がよくわからない。中耳炎で培養を採取して起因菌を確定することは困難なはずだ。AMPCが奏功しなかった場合にそれが抗菌薬のスペクトラムの問題なのかどうかわからないと治療方針に難渋するのではないだろうか? そもそも中耳炎と診断して経過観察をされている児を今までに見たことがない。「BLNARが問題だから!」といって抗菌スペクトラムを広域にする前に必要なことは抗菌薬処方閾値を適切にすることではないのかと感じてしまう。

 まあそれは公衆衛生的な話、目の前の患児に明らかな抗菌薬処方適応があってBLNARも考慮、となった場合について考慮しなくてはならない。つまりCVA/AMPCが奏功しない時について(CVA/AMPCが本当に奏功しない時について)である。感染症は奏功しない時には増悪するからだと思うのだが、軽症にはこの先のステップがない。中等症の場合にはAMPC高容量またはCVA/AMPCで開始して、ダメなら鼓膜切開を併用するような流れになっている。だからCVA/AMPCで奏功しない場合にはもう耳鼻科送りで良いのだと思う。(完全に偏見なんだけれど耳鼻科医って外科医だから切った貼ったが好きで耳鼻科医をやっているのだと思っていて処置のないものを送り付けることにためらいを感じてしまう。めまい診療とか嫌いそう。メンタルの人多いもの、めまい。抗菌薬投与のみで保存的に加療できるかどうかを判断するところまではgeneral physicianの仕事なのかなと考えている。)効果判定の時期については投与後3-5日程度のようだ。

 何の説明もなく先に出していた重症度評価については37ページ(pdfで45ページにあたる)に記載がある。鼓膜所見上中耳炎だと診断した時点で、つまり膨隆と発赤があると思った時点で6点になるからすでに中等症になってしまう。うーん、となるとここで言う軽症にあたる中耳炎は実際存在するのだろうか。抗菌薬フリーで経過をみている中耳炎が全然ないというのは、単純に軽傷に区分される中耳炎患者がほとんどいないようなスコアリングになっているからではないか。滲出性中耳炎がもともとあって、耳鏡での診察を嫌がって泣き叫んで鼓膜が赤くなっているだけの人、だけが急性中耳炎の軽症に分類されるのではないかと思ってしまうくらいだ。

 次に米国小児科学会(American Academy of Pediatrics;AAP)の推奨について確認してみる。BLNARの比率などにおいて違いがあるだろうから、抗菌薬の選択については必ずしも本邦において正確ではないだろうが、処方閾値等は参考にして良いと思われる。したがって以下にはAAPの処方閾値を引用する(拙訳)

【抗菌薬の適応についてAAPの推奨】2)

抗菌薬の絶対的な適応:

 6か月未満の児

 リスクを増大させる合併症を持つ児

  具体的には

   頭蓋や顔面の奇形(口蓋裂など)

   免疫不全

   鼓膜寒気チューブ留置中

    (tympanostomy tubeって和訳これでいいですか?)

 6‐24か月の児について以下のいずれかがある

  中等度から高度の耳痛

  48時間以上持続する耳痛

  体温39度以上

頻回フォローまたは抗菌薬治療いずれでも可:

 上記適応に該当しない片側の急性中耳炎の児

 両側の6‐24か月の児

 あらゆる24か月以上の児

 

 結局のところ、抗菌薬の適応についてはAAPのガイドラインを基準に考えつつ、ペニシリンアレルギーがない場合にはAMPCまたは重症度に応じてCVA/AMPCあたりを第一選択として、耳鼻科的処置の必要かもと思った場合には迷わず紹介というのが良いのかなと思いました。

 

1) 小児急性中耳炎診療ガイドライン2018

https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2018.pdf

 

2) Allan S Lieberthal et al. :The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media Pediatrics. Pediatrics March 2013, 131 (3) 

https://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/131/3/e964.full.pdf